Dynamics 365 の提供するアプリケーションを理解する にて、Dynamics 365 で提供する様々なアプリケーションを理解できたと思います。Dynamics 365 はアプリケーションを駆使することで、SFAだけの領域にとどまらず、人事や経理、マーケティングやプロジェクトマネージメントまで、幅広く活用できます。
ただ、今回の記事では、Dynamics 365 を導入する前に、必ず意識してほしいことをお伝えします。それはDynamics 365 を導入することがゴールではないということです。なぜ、今更そういったことをお伝えしているかというと、「システム導入がゴール」 になっているプロジェクトは、意外と多く存在しています。
例えば、「顧客情報が活用されていない」 という課題を持つ企業の担当者が、
- 顧客情報をシステムで管理したい2
- 社内ですでにOfficeを活用しているので、同じマイクロソフト製品のDynamics 365 に興味がある
- ライセンス費用を比較したらお手頃であると判明
- 少数の管理者のライセンスだけ購入してさっそくシステムを導入しようと担当者レベルで決定!
となり、Dynamics 365 を導入したとします。
システム導入後、営業や間接社員にデータを入力するように依頼し、データを収集できるようになりました。ただ、そのデータで何をしたいのか、どのような結果を生み出したいかを十分に検討しておらず、結果として、Dynamics 365 はただの “箱” になってしまいました。これでは、Excel で管理したほうがシンプルでコストもかかりません。宝の持ち腐れです。
もっと Dynamics 365 の持つ可能性を引き出してほしい。システム導入が自社の売上アップに直結し、業務が劇的に改善され、CRMシステムの持つ力を体感してほしいと願うからこそ、システムを導入する前に、必ず明確にしてほしい5つのことについてお伝えします。
目次
【1】導入目的を明確にしよう
「なぜ Dynamics 365 を導入したいのか?」 この 目的 を明確にすることが一番最初のステップです。
- なぜ CRMシステムが自社に必要なのでしょう?
- なぜ Dynamics 365 がいいと思ったのでしょうか?
- 顧客満足度を上げるため?営業部門のため?それとも、売上を拡大したいから?
目的が明確になっていないことには、CRM導入後の成果は期待できないでしょう。導入したのちに企業をどのような状態にもっていきたいのか・あるべき姿は何かについてはっきりさせておく必要があります。
先ほどの例でいえば、なぜ 「顧客情報を管理すること」 が重要なのでしょうか?
顧客情報を整理して、適切な営業活動を行うため、個々の顧客についてより深く理解して適切なサービスを提供し続けるため、社内での情報を共有することで営業力の底上げを行うため、情報管理に必要な人件費やシステム管理費などのコストを削減したい、など様々な目的があると思います。
一般的に、導入を検討する企業というのは大半がITに関して理解しきれていない部分も多いはずです。だからといって「導入してみれば何とかなるでしょう」と安易な考えで導入に踏み切っても、成功するはずはありません。また、ITを理解している担当者が、経営や営業など現場を理解しているか、と言われたら、それもまた疑問かもしれません。どのような目的があるかを、関係者と共に明確にしていきましょう。
【2】 社員達が導入する意味を理解していますか?
Dynamics 365 を導入することは、顧客や社員にとって、会社全体にとってどのようなメリットにつながるのかを社員達が把握していないといけません。
それに加えて、導入に社員達が円滑に適応できるよう、事前にどのようなインターフェイスが必要かどうかといった要望を聞いておき、複数あるDynamics 365 のアプリケーションを選択する場面から、社員を巻き込んで決めていくことが理想的です。そうすることで、「一部の担当者が勝手に導入したシステム」 ではなく、「自分たちの要望や業務改善のために導入されたシステム」 という意識になり、より自分事としてとらえ、Dynamics 365 を現場に必要なシステムとして認識していくことができるでしょう。
仮に、このようなヒアリングが充分でなく、すでにシステムを導入したのであれば、実際に使用している社員達の声を真摯に聞いて、少しずつでも改善していきましょう。社員達の理解不足による Dynamics 365 導入の失敗は、残念ながら少なくありません。
【3】導入にあたっての社内意識をまとめていく
1つ前の「社員達が理解していない」にも共通していますが、業務というのは基本的に部門同士が連携をとりながら進めていくものです。従って、部門間での必要な情報がスムーズに引き継がれることは必須です。ですが、失敗に終わってしまう企業はこのような部門間の連携意識がバラバラなことが多いのです。
例えば、「営業部門が担当の案件なので後でミーティングを開催して説明する」というように、情報の引き継ぎに余分な労力がかかっているようでは、導入後もスムーズに運用していくことは難しいでしょう。
また、Dynamics 365 はシステムです。システム = IT部門ということで、システム担当者に任せっぱなしは良くありません。Dynamics 365 は顧客管理のためのシステムですから、Dynamics 365 を利用する各部門の関係者が、プロジェクト当初から深く関わっていけるように進めていきましょう。
【4】データの整合性を保てる工夫を最大限に
Dynamics 365 を導入後、現場の社員がデータをインポートしたり、直接入力する際、現在のデータが不完全であったり、すでに使っていない項目がそのままにされていると、とても煩雑なシステムが出来上がります。
データの蓄積では、常に整合性を保ち、不要な情報は整理していく必要があるので、システム導入する前に、現在インポートしようと思っている、その顧客情報を今一度きちんと整理してみてください。
“よくわからないから、とりあえず入れておこう” というデータほど使わない情報はないので、利用用途がはっきりしない情報は思い切って捨てる、もしくはどこか別のExcelにでも保存しておいて、本当に必要な情報を厳選しながら、Dynamics 365 にデータを蓄積していきましょう。
そもそも Dynamics 365 で管理しているデータが信用できなければ、そのデータから抽出されるレポートやダッシュボードの情報は信用できないということになります。そのために、データを入力する前の加工や、データを正しく入力するために、Dynamics 365 でどんな工夫を行えばいいかを十分検討してください。
見た目、入力フォーム、権限設定、現在どのような業務フローであり、Dynamics 365 を導入すると、何が変わるのかを明確にできればいいと思います。
【5】Dynamics 365 導入後のサポート体制を準備する
Dynamics 365 導入後、その使用方法やシステムエラーの対応は誰が行うのか、現場でDynamics 365 を利用するのであれば、現場の誰がレクチャーを行い、業務レベルに落としていくのか、システム導入前のパイロットユーザーは誰か、などをきちんと把握する必要があります。
これは、部門間の協力が必須で、もしシステム導入に対して協力的でない部署があれば、協力するように強く依頼をしてください。システム担当者は、どんなに現場の業務をヒアリングしたとしても、各部門の業務を完全に理解することはやはり難しいため、現場でシステムを利用する社員が、Dynamics 365 について理解を深めていく必要があります。
そのためには、Dynamics 365 導入プロジェクトにおいて、自社のヘルプデスクや現場のシステム利用者の知識を深める期間を設けて、各部署でスペシャリストがいる状態になればとても理想的です。
終わりに
さて、Dynamics 365 を導入する前に特に重要視してほしい5つのポイントについてご紹介しました。まずはこの5つのポイントを意識して、Dynamics 365 を導入する道筋を明確にしていきましょう。そうすれば、Dynamics 365 は自社にとってとてもパワフルなツールになるでしょう。
ただ、矛盾するようですが、5つのポイントすべてを完璧に抑えていないとDynamics 365 導入がうまくいかないわけでは決してありません。例えば、導入目的は明確でも、各部署から中々受け入れてもらえず、導入後もすぐに定着しないパターンも十分考えられます。ビジネスにおいて、準備が完璧に整って動く、というケースはほとんどなく、動きながら準備を整えていくことが多いのではないでしょうか。
その場合は、たとえ各部署からの協力が得られていない状態だとしても、サポート体制が未完成だとしても、Dynamics 365 を導入して使ってみながら、成熟させていけばいいと思います。Dynamics 365 を含めた CRM システムは社内のあらゆる人が関わってくるからこそ、定着させるまでに長い時間がかかることは間違いありません。定着までの各過程を、社内各部門が一丸となって手順を踏んで取り組んでいく必要があります。
次回の記事では、今回ご紹介した 【1】導入目的を明確にしよう について、具体的な例を紹介したいと思います。
それでは今回はここまで。